2025.04.09
”違い”の先に、ハーモニーを聴こう/SLOW LABEL 栗栖良依さん
人と人(pieces)の個性を束ねてベートーヴェンの第九を鳴らそう。その日、その場に集った人たちでつくりだす平和(peace)の音を、国内外さまざまな土地で2030年まで奏で続けよう、とそんな大長編アートプログラム「Earth ∞ Pieces」がこのたびtheGreenにやってきます。
昨年(2024年)3月の横浜は象の鼻テラスでの演奏を皮切りに、ただいま実施二年目。ツアーの途上にあるこの企画のプロデュースを担う栗栖良依さん(認定NPO法人スローレーベル 芸術監督)に話を聞くことができました。
世界を股に。個と個の響き合い
——構想が、とにかくスケールが大きいのですね。先の2020年東京パラリンピックで開会式/閉会式パフォーマンスのステージアドバイザーを担ったスローレーベルそして栗栖さんだけに、その志の規模がやはりという印象です。PieceとPeaceで、ダブルミーニングですね。
企画名について、カタカナでみると発音的に“Spicies”(生物を分類する際の“種”)とも読めますよね。つまり、生物多様性的な意味合いも持たせていまして。
2030年までの間にテクノロジーは今後も目を見張るような進歩を続けるでしょうし、私たちも場数を踏むうち、新たなアイディアを思いつくはずです。期間中、ゆくゆくはヒトに限らず他の種の動物たち、さらにはAIも交えたパフォーマンスを繰り広げられるのでは、と。

東京2020パラリンピック。終演後の一幕
2030年はSDGsの達成目標年に当たります。これを総括する国連総会の開催地ニューヨークでこのプロジェクトもグランドフィナーレを迎えるのが目標です。内容的にも“地球オールスターズ”のような多「種」多様なにぎやかさを打ち出せたら。途中でやってくるミラノ(2026年/冬季)やロサンゼルス(2028年/夏季)の各パラリンピックの折にもぜひ現地で、と思います。
身体的にも様々な特性を持つ人でパフォーマンスを行う私たち(スローレーベル)としては、先の東京パラリンピックで得たノウハウを存分に生かせばきっと、まだ世にない水準のものがお見せできるのでは、と考えています。

様々な業界を対象にアクセシビリティを学ぶ講習会を開き、その考え方と実践の普及を図っている
——まさに世界の檜舞台を踏んだスローレーベルですが、この時はご自身としても2010年の骨肉腫の苦難を経てさぞ感慨深かったことと思います。
当然、予期していなかった大病でしたし罹患当時は一年先の命も定かでなく、寝たきり状態からのリハビリが必要でした。本当にゼロからの再出発でこのとき諦めかけていたものの、実は、オリパラのパフォーマンスを手がけるのは私の学生時代からの夢でした。
これは90年代にまでさかのぼる話なんですが。当時リレハンメルオリンピックの開会式をテレビ中継で観ていた私、「(自分が成し遂げたいことって)これだな!」と膝を打って感動したんです。中一から勉強そっちのけで学級全体を巻き込むパフォーマンス制作をやるような子だったんですけど、出演者として地域市民が老いも若きも参加するそのセレモニーに、パフォーマンス作品としてめざす理想を目の当たりにした気がして。こんな風に全世界に作品がお披露目できたらどれだけ素晴らしいだろうって。

象の鼻テラスでの初演にて
印西でも、響き合おう
——来たる5月10日、11日のtheGreenでのEarth Piecesでは、サポートミュージシャンのイトケンさん、三浦千明さんの二名が一座を代表して登場し音作りやアンサンブルをワークショップ形式で行う中、企画発案者・栗栖さんとして寄せる期待について、どうぞ。
楽器に腕の覚えのない方、ふだん練習する時間の余裕がない方、どなたでもご参加いただけることを改めてお伝えしたいですね。
いま働き盛りの方でかつてバンドだったり吹奏楽部だったり、またひとりでも音楽や楽器に親しんでみた方って沢山いると思うんです。でも誰かと合奏する機会は貴重ですし、一度たしなみかけた楽器も気づけば押入れに奥深く眠ったまま、五年十年。そんなあなたにぜひ、という気持ちです。日常は必ずしも思い通りにならないもの。そういう中でも、本心からワクワクできるような機会となりますよう。
Earth Piecesは音楽家・蓮沼執太さんの手になる「音楽の設計図」、また共同作業するサポートミュージシャンの確かな手ほどきが強みです。いんば学舎のメンバーさんも参加しての、常識的イメージとは異なる手応えはきっと新鮮なのではと思います。
望ましくは、一度と言わずもっと中長期な視点でより大きな花を咲かせられたら、などと考えてしまうくらいです。しるしとなる蝶ネクタイを首元に、この日だけでなく様々な開催現場で夢、いっしょに膨らませませんか?
栗栖 良依
異文化の人やコミュニティをつなげ、対話や協働のプロセスで社会変革を試みる市民参加型のアート作品を多く手がける。2010年に骨肉腫を患い、翌年、SLOW LABEL設立。東京2020パラリンピック開閉会式ではアクセシビリティおよびDEIを総合監修。TBS「ひるおび」レギュラーコメンテーター。第65回横浜文化賞「文化・芸術奨励賞」受賞。